「森」という名の写真家。

挙式の日の朝から披露パーティまで、
晴れの日のドキュメンタリーを撮るのが写真家の仕事である。
わざわざ作ったものでもないし、場面を演出することもしない。
芸術なんてもんじゃなくて、ありのままを撮っていく過程でそのままで感動的なシーンに出くわす、といった方が適切かも知れない。
見たものを撮る。そんな当たり前のことを言うと、まるで成り行きで撮っているみたいだけど、決してそんなことはない。

そんなスタイルに惹かれて相談してくるお客は、「森さんと写真の打ち合わせって言っても何を決めればいいの?」と考えてしまう。
べつに、決めることはそれほど多くない。
打ち合せで話す事。
お父さんお母さん、お爺ちゃんお婆ちゃん、ひいお爺ちゃんひいお婆ちゃん・・・、
上はどこまでも繋がっていて、この人たちが居なかったらいまの自分は存在しない。
そしてお父さんお母さんやお爺ちゃんお婆ちゃんの兄弟が居て、これがいわゆる親戚という、縁ある人達。
この「縦の繋がり」は現代では細く見えるが、実はとても太いものである。
そして「横の繋がり」には友人や知人や同僚などが居て、自分という人生の歴史の中である時代を彩ってくれるものである。
太いどこまでも伸びている「縦の繋がり」と自分の時代を彩る「横の繋がり」があって、自分の人生の座標点のようなものが見えて来る。
この座標点は誰にでも存在し、結婚式とは実はこれが目の前で見えるものなのだ。

人はひとりでは生きていないと感じる事ができるということは、いまのような核家族や個人というものが尊重される現代では貴重な機会であって、人の温かさを感じるとても良い体験なのである。
そして、これが結婚式のメインテーマなんだと語る。

しみじみとこんな話をしながらお客との距離を少し縮めることが出来たら、打ち合わせのほとんどが成功したといっていい。
『友人、同僚、親戚…結婚式に来る人って、隠しようもない素の自分を知っている人たちだから、そうした人たちに祝福されている時の中にいると、別にこちらが引き出すまでもなくその人らしさが出てくるんですよ。』

最近、好んで出向いているのが、洋風庭園が美しい旧古河庭園。
文化財として有名なこのルネッサンス風の洋館は結婚式場ではないので、豪華な設備やあっと驚く舞台装置もない。
それでもひとたび要請があれば、スタッフと利用者がいろいろなアイデアを生み出し、相当な手間をかけて
手づくりのウェディングを用意している。

シアワセの作り方に「こうすれば正解」なんてものはない。
どんなやり方をしても心が通っていれば、感動、感謝が自然に溢れてくる。
写真家もまた
「こうすればキレイに写る」「こうすれば売れる」といった計算を極力排除して、感性に任せてカメラを構える。

写真家の信条。
いつでも「思い立ったが吉日」。
いきなりぶっつけ本番、出たとこ勝負で目の前の一瞬をスナップする。
もちろん、やり直しなんか存在しない。
そのかわり、正解もない。
答えは撮られた人の感謝の言葉に現れる。

ある日、メールがあった。
「弟夫婦に内緒で結婚式をプレゼントしたいので、驚く二人の写真を撮って欲しい」とにかく会って話を聞いてみようということになった。
計画の日は、弟夫婦が入籍してちょうど1年目の前日。
交通事故に遭って車椅子生活の義理の妹。
「たくさん苦労してきたのにいつも笑顔で頑張っている二人に何かしてあげたい」この日、結婚式を挙げてなかった二人にサプライズを用意するお姉さんと友達。
思い出に残るイベントとは心で作るものだ。

『目の前にあるモノの中に、ありのままで既に面白いものや不思議なもの、美しいものがあって、僕はそれを見つける事や感じる事が好きで、  写真で記録する   という行為は、実はその後ろにあるんですね。』
ココロに写った感動をありのままに写せば自ずといい写真が撮れる。

思い入れのある場所で写真を撮る。大切な人との写真を残す。
そんな写真家の仕事は、いちど撮られると癖になるらしい。
かつての新郎新婦らから「新居を建てた」「子供が産まれた」と言っては呼び出されている。
そうして、全国各地に住むお客の人生の座標点を写真に納め続けている。

都会に愛想を尽かして、海辺で暮らし始めて8年。
3.11もここで経験した。
ずっと人を撮り続けてきた写真家は、より強く「縦の繋がり」「横の繋がり」を感じるようになり、よく街の風景を、田舎の景色を、そして自然を撮るようになった。
自分たちは、次の世代にどんな未来を繋いでいくのだろうか?
そんなことを考えるようになったという。
『ちょっと失礼。』
突然インタビュー中に建物の外に出て、写真家が八鶴湖畔、御殿山の夕焼けにカメラを向けた。

写真家 森 時尚プロフィール】
1962年1月11日東京生まれ。山武市在住。
某結婚情報誌にも掲載多数。
犬を連れて海辺を散歩するのが日課。

仕事で出会った時は
『どーも、写真屋です』と自己紹介する。
しかし、彼の作風に触れていくうちに
彼が『写真家』であることを
認めざるを得なくなる。

詳しくは、ホームページで。
http://photoisdiscovery.com


※記事は発行当時のものです。